[短歌]- 友達を迎えに 30首
統計学勝負しようと挑まれた七月 戦争映画は観ない
空襲に焼かれた過去もあるらしい民放二局の陸の孤島は
ジャカランダすずなりに咲く海岸を実習バスがぽつんと走る
たぶん結婚してないだろう准教授の宮崎弁のとても大声
二回目の大学だから成績も結構良くて花も育てる
目標がないまま作る手料理の一人暮らしに口笛を吹く
インスタを開いたら出る友達とマイホーム友達と赤ちゃん
これまでの友達の顔よぎる夜に「二十九歳 年収 平均」
人当たりの良さでわたしは無農薬野菜を大家さんからもらう
東京を離れて三万円2DK 生のピーマン種ごとかじる
departには死の意味もあり住民票移した役場から延びる道
勉強がしたくて退職したことにしたくて真面目に通う大学
十年後のキャリアプランを考える講義があって考えている
麻雀を昼から囲むこんな日がわたしの十年前にもあった
年確をされない日々が続くだけだよとは言わず渡す点棒
見せつけたゴールド免許の平成の来ることのない有効期限
生きている友達も死んだ友達も乗せてわたしの脳 地球号
二日酔いの朝のシャワーはブレていてそれから時間が追いついてくる
四月から七キロ減った体重はどこへ学費を振り込みながら
信念もボーナスもなく腕力で大根じゃくじゃくとすりおろす
今すぐに来てと言われたら戦争に行くのだろうか友達のため
台湾の留学生に教わった罵り言葉を忘れて眠る
写真部の恋の噂に加わらずフィルムカメラと秋の渓谷
橋を渡るわたしを撮りに林へと紛れてしまう背中小さく
クワイ河マーチ吹きつつシャッターを押す 逃走も肯定したい
髪を直す癖真似されて見られてたことの嬉しさ永遠である
晩秋の夜気沸き立つ照葉樹林 黒霧島を白湯に垂らせば
椰子並ぶ空港からのご機嫌な道に感動できる何度も
失恋が好きなわたしは友達を迎えに夜の県道走る
妹より年の離れた人に剥く心臓みたいなラ・フランス二個
第66回短歌研究新人賞 最終選考通過作品
