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[短歌・エッセイ] - 短歌連作「2024.7.17-18」/エッセイ「青春18きっぷの終わりに𠮷田恭大

2024.7.17-18  𠮷田恭大

 

始発。鳥取から因美線と津山線で岡山まで。

山の陰、山の気温のなか進む智頭土師那岐美作河井知和

岡山から観音寺まで快速マリンライナー。
晴れの国の日差し眩しくそのままに瀬戸内海を渡っていった
観音寺から松山まで3時間33分。

目を開けるたび学生が入れ替わる車内に波がさざめいている
ニュー道後ミュージック。

怪談の果てに女の幽霊が二本の脚を晒してみせる
道後温泉には入らなかった。

合体すると道後温泉本館になるフィギュアを買わなかった話
松山から八幡浜。八幡浜から宇和島フェリー。
普段は朝まで船内で寝かせてくれるけれど、お盆ダイヤで早々に降ろされてしまう。

目を閉じて横たわるだけでもいいと岡井隆も言っていた筈
それで、別府で朝まで持て余す。

駅前の駅前高等温泉が開くまで駅前で横たわる
「JRキューポのおトクさを、広めるためにインフルエンサーをめざすJRキューポの妖精。」

キューポちゃんが可愛くても検索しないピクシブ大百科も調べない
別府から延岡まで特急にちりん3号。

この駅は大きなTSUTAYA図書館で待合で読む木山捷平
延岡から日向市へ。一年ぶりの日向市駅。

改札を出て牧水の銅像が何度でも記憶より大きい

青春18きっぷの終わりに​   𠮷田恭大

 

 移動そのものが趣味の人間として、十代の頃からシーズンのたびに青春18きっぷを愛用してきたけれど、社会人になってからはさすがに利用頻度が落ちてきて、LCCや新幹線を使うことが多くなった。鈍行にひたすら乗り続けるよりも、たとえば名阪間ならJRより近鉄特急に乗りたいし、関西から九州に行くなら東九フェリーで夜の間に移動したい。
 二
二四年夏。牧水短歌甲子園を観戦するために、実家のある鳥取から会場の日向市まで行くことにした。普通列車を乗り継いで鳥取から松山を経由して八幡浜まで移動し、そこから宇和島フェリーで夜のうちに別府まで。翌日別府から日向市まで日豊本線に乗って、昼までに日向市に着くルートを立てる。
 18きっぷユーザーにとって、日豊本線は鬼門だ。特に大分から宮崎の県境、佐伯―延岡間は界隈では「宗太郎超え」と呼ばれていて、普通列車が上下あわせて一日三本しか走っていない。今回は別府―延岡間を特急にちりん、延岡―日向市間を普通列車に乗ることにした。延岡―日向市間は五
〇〇円足らずで着いてしまうため、18きっぷは最初の一日しか出番がない。
 二
二四年冬から青春18きっぷがリニューアルして、三日間か五日間、連続する日程でしか切符の利用ができなくなるとJRから発表があった。何日もぶっ通しで鈍行に乗り続けるのは、時間も体力も限られる三十代社会人にはどうしても難しい。今後の移動の選択肢として、18きっぷを使う可能性はほとんど無くなってしまった。残念だけれども、青春の終わりとしてはそろそろ良いタイミングなのかもしれない。次に宮崎に行くときは、神戸からカーフェリーで向かおうと思います。

𠮷田恭大(よしだやすひろ)
一九八九年鳥取生まれ。歌人・舞台制作者。二
一九年いぬのせなか座より『光と私語』を刊行。同年より詩歌の一箱書店「うたとポルスカ」を運営。二二五年に第二歌集『フェイルセーフ』(角川書店)を出版。

2025年刊行の短歌誌「現代短歌パイレーツ 宮崎編」に掲載。

𠮷田恭大さんの最新歌集『フェイルセーフ』はこちら。

Iguchi Toshinori(Ugetsu Nasuharu)

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